鼎談 : 古い仏壇を つくり替える
- 仕事 仏壇リノベーション
- 場所 東京都
- 取材・文 竹内 典子
- 写真 asakawa satoshi 無記名分:SEKI DESIGN STUDIO ( 写真協力:丸山弾建築設計事務所 )
Vol.4 | 東京都・多田さん | Jan.2017
特別なものではあるけれど、自分たちの暮らしに合うようにつくり替えたい。多田君枝さんにとってのそれは、祖母から伝わる古い仏壇だった。建築・インテリア雑誌の編集長である多田さんが考えついたのは「小さく、つくり替える」こと。家族の思い出と寄り添うものを、どのようにつくり替えて、どう祀るか。建築家・丸山弾さんも連携しての仏壇リメイクについて、3人で語り合った。
古材の感覚で生かす
関
「古い仏壇を、つくり替えることはできませんか?」という多田さんからのご相談を受けて、初めて仏壇リメイクに取り組みました。仏壇は特殊なものですから、多田さんも僕たちもいろいろと勉強したり、模索したり。とはいえ、やっぱり多田さんらしいものにしたいという思いで、古い仏壇から、新たに小さな仏壇、文机、収納箱、鏡、花台、多用板といったいくつかの暮らしの道具をつくらせていただきました。
それにしても仏壇のつくり替えというのは、なかなか勇気のいることだと思います。まずはその経緯から伺えますか。
多田さん
仏壇は、私が生まれた時に、祖母が持ってきたものだそうです。もとの形は2段でした。女手一つで5人の息子を育てあげたという祖母は信心深い人で、私は初めての女の孫だったこともあって、何かとかわいがってもらいました。
関
サイズは縦横が約75センチ角に、奥行40センチくらいの仏壇でしたから、その下に同じくらいのサイズの置台があったのかなと。
多田さん
私はいわゆる新興住宅地の核家族で育ったんです。家ではなにかの折りには仏壇に花や線香を手向けていましたが、両親も特定の宗教を持っているわけではなく、法事なども最低限のことしかしていませんでした。ただ、「自分なりの神様仏様」は持っていたようで、そんなところは私も同じかな、と思います。
関
ご実家にずっとあった仏壇が、どうして多田さんの家に来ることになったのですか。
多田さん
実父が2007年に他界しまして、その後、母は一人で住んでいたんですけれど、2012年に弟と同居することになって、実家は空き家状態が続いたんです。それで、母が実家を処分しようと言い出して、ちょうど私も2013年にこの家に引越して来たので、ピアノを引き取ることにして、ほかの荷物の処分もあって1年くらい実家に通ったんですね。その時に、仏壇をどうしようかと困ってしまって。母は処分してよいと言ったし、弟も同じ考えでした。でも、変な考えかもしれませんけれど、古材という眼で見ても処分するのはもったいないことに思えたんです。
関
素材として見るところが多田さんらしいなあ(笑)。
多田さん
不謹慎に思う方もいるかもしれませんが、私にはいい古材!という感じで。木目もきれいだし、お焚き上げして燃やしてしまうにはしのびないと。それで、とりあえず自分の家に持ってきて、しばらくしまっておいたんです。でも、このままではどうしようもないので、小さくするのはどうだろうかと考えました。ただ、あまりにも非常識かなとも思ってネットで調べたら、小さくすることをやっている人はいたんですね。しばらく悩んだ後、関さんだったら一緒に真剣に考えてくださるでしょうし、得度なさっている秋山さんにもアドバイスをいただけると考えて相談しました。
関
僕も初めて仏壇を見せてもらった時に、モダンなというか、家具みたいな印象を受けました。
多田さん
祖母の家の仏間はそれなりに立派でしたけれど、東京だったので、北陸や東北で見るような豪華なものとは違って、どこか家具っぽいというか。でも、祖母が新調したものか、あるいは古い物を買ったのかもよくわからないんです。しかも、祖母は仏壇の素材を桑だと言っていましたが、実際は栓でした(笑)。
関
栓の板目で、個性的な木目が立っているところを使っているので、きっと桑に似て見えたんでしょうね。
多田さん
栓は、よく欅の代用にも使われた素材ですよね。
仏壇との関係性
関
多田さんにお聞きしたかったんですけれど、仏壇がいまの家に来て、どこにどう置くか、ということと、仏壇というのはご両親やご先祖様につながる特別な存在でもあるから、そういうものを家の中に得るということを、同時にイメージして、どこに置こうかとか考えていたんですか?
多田さん
いま仏壇を置いている「離れ」は、もともと私の部屋ではなくて、ゲストルームのように使っていたところです。じつは昨年、実母も他界してしまったんですが、その前に一度お正月に来て、あの部屋に泊まりましたし、今年は弟家族が泊まりに来ました。関さんに仏壇のつくり替えを依頼したのは母の存命中で、離れには父を祀るというか、家の中に神聖な場所があったらいい、というように考えていました。
関
最初は、仏壇をコンパクトにしたいという依頼で、それを離れに、本棚の上に置くような大きさでということからスタートしました。それと、文机もほしいということは、最初から仰ってましたね。
多田さん
家族から、離れは私の部屋にしたらいいんじゃないかとも言われていて、何度かあそこで仕事をしたことがあって。でも、正座してパソコンするのは足が辛く、そうかと言ってテーブルと椅子を持ち込むには狭すぎて、ちょっと使いづらいなと思っていたんです。そんな時に、仕事で京都の美山荘へ行ったら、客室の縁側の突き当たりが掘り炬燵風になっていて暖房も入っていて、これはいいなと。それで、離れのような低座の生活には、床を掘込めばいいんだと思いつきました。
関
最初は窓側に文机を置こうと考えましたね。
多田さん
書院みたいなイメージでした。障子があって、その前に机があるというような。それで、窓側の床を掘れないかと考えたんです。
関
コンパクトな仏壇と文机がほしい。ほぼ同時の依頼でしたから、仏様に手を合わせたり、パソコンやったり、書き物したりという、あの部屋での多田さんの動きというか目的が、何となく定まってきたのでしょうね。窓の外にはよく手入れされた緑があって、川も流れていて開放感あって、外を眺めたりしながらパソコン仕事をするのも気持ちよさそうで、そんなスケッチを僕が描いたり。机に引出しを付けるか、あるいは脇に引出しのついた箱物をつくるかとか、文机の大きさや、足元を掘って、その穴に足を入れるとどんな感じになるかとか、新聞紙を切ったものでいろいろ検討もしました。その頃から、離れのコンパクトなスペースの中に、本棚、仏壇、文机、箱物などがあって、どこに座って、どんなふうに仏壇が見えたらいいかというようなことを考え始めましたね。
多田さん
それで、この家の改築設計をしてくださった丸山さんにも相談しようということに。関さんと丸山さんが家に来てくださって、どこに文机を置くかという話をしていたら、主人が突然、「真ん中でいいんじゃない?」って言い出して(笑)。
関
そうそう。その時に、窓側は止めて、部屋の真ん中に文机をつくって、足元に穴を掘って、そこに多田さんが座る、という方向が決まりました(笑)。右側にある窓から光が入るし、景色が見えて、風も流れてくる。そして、目の前には本棚があって、そこに仏壇もある。机に座ってふと目を上げると、自然に仏壇が見えてくる。そういう光景が、次第に見えてきました。
多田さん
そうですね。仏壇との関係性が具体的になってきました。
小さな仏壇と鏡と文机
関
もとの仏壇は扉が4枚あって、観音開きの折れ戸。当初はその4枚の扉を利用して、正面の2枚を扉に、あとの2枚をそれぞれ側面に使って、背面だけ新しい板でつくろうかと考えました。でも、それでは扉の幅が狭いので奥行きが足りない、ということになり、正面に扉2枚を利用して、側面と背面と天地は新しい箱をつくることで奥行きを出しつつ、本棚の上に置ける寸法や内部に置くものの寸法を決めて行きました。その時に、余った2枚の扉ももったいないから何かに利用できないかということになって、鏡にしようと思いついたんです。ちょっと神様と仏様では違うけれども、特別なものという精神性を思って、神社で見かける鏡をヒントにしました。ふだん、仏壇に手を合わせた時に、ちらっと鏡に映る自分が見えたりとか、扉が鏡の額装となることで何か想いをつなげられたらいいなと思ったんです。
多田さん
ちょうど扉が2枚余るので、2つの鏡にしてもらいました。1つは私の弟用にしようと思って。
関
それは本当に多田さんらしいやさしさだなと、僕はしびれました(笑)。
多田さん
出来上がった鏡を持って行ったら、思いがけず高校生の姪がすごく喜んでくれました。
関
それはよかったです。うまく言えませんけれど、ものづくりを超えたところというか、何かとても嬉しいものがあります。
多田さん
私も本当によかったなあと。
関
もう一つ、うまくつながったと思えたのは、もとの仏壇のお飾りの部分を、文机に利用できたことです。お飾りは古い仏壇の象徴のような気がして、どうしてもどこかに生かしたかったもの。でも、なかなか使い方が決まらなくて、ずいぶん後になってから、文机の天板上部に象嵌することを考えつきました。すると、文机に多田さんが座った時に、鏡が見えたり、仏壇が見えたり、お飾りが見えたり、というふうに元の仏壇がゆるやかにつながります。離れはコンパクトな空間だから、身を置いた場所ですべてが目に入ってくるというのがいいなと思ったんです。いつもお父様やお母様が近くにいるというか、何か作業をしていてもちらっと目に入ることで想うこともあるのかもしれないなと。
多田さん
本当によく思いついてくださいました(笑)。
関
文机づくりは、当初は仏壇の側面と天をそのまま利用してとか、その部分と新しい材を組み合わせてとか、そういうところからスタートして考えていたので、新しい檜の板で文机をつくって、そこに象嵌するというのは、意外な着地でした(笑)。
多田さん
文机に利用しなかった側面と天の部分を使って、花台もつくっていただきました。いまは人形を置くのに使っています。
関
そして、少し余っていた部分は、うまく組み合わせて1枚の板材みたいなものにして、用途を定めずに多用できればというものに。材料としても使えるので、後で脚をつけて台にしてもいいかもしれません。
もとの仏壇には、再利用できそうな部位がいろいろありました。もったいないというのもあるし、お祖母様、ご両親、多田さんと引き継いできたものを、これから先も使える道具にして、上手につないでいけたらと思いました。
日常空間と離れ
関
ここからは、丸山さんにも対談に参加していただきます。3人だから、鼎談ですね。
仏壇のつくり替えについて、多田さんと振り返って話をしてきたところですが、やはり、物だけでなく、丸山さんの手がけられた空間との関係性も大きいと思っています。あの場に新たな仏壇を置くこと、それとどんなふうに向き合うかということを、丸山さんと一緒に考えられたことは、この仕事の面白いところでもありました。
改めて丸山さんに伺いたいのですが、仏壇を置いた「離れ」は、かなりコンパクトな部屋ですよね。この家の改築設計をされる中で、どうしてあのような部屋を考えられたのでしょうか。
丸山さん
家全体のことから話しますと、お義母さんと多田さんご夫妻の3人家族は、それぞれ生活の時間帯が異なるので、個々の生活リズムを保つためにも、まずは日常を支える空間を整えました。それは日々生きていくための必要に応じた空間ですから、どちらかというと動的な営みを支えるものになります。ただ、多田さんはそれだけでは済まないというか(笑)。
多田さんと話をしている中で、日常から少し離れた場というのを求めていると感じていました。日常を支える空間と、静的で精神寄りな空間をどう共存させるか、なかなか難しかったです。
多田さん
最初の頃は、日常空間と離れが床で続いている案もありましたよね。でも、いろいろ考えているうちに、日常空間とは離してもいいかなということになったんです。
関
日常空間とは床が続いていないので、「離れ」と呼んでいますけれど、別棟ではなくて、玄関ホールを介してつながっています。広い玄関ホールの土間から、高めの式台があって襖もあって、離れは奥まっています。
多田さん
間が多いんです(笑)。
関
そういう間というか余白というか、部屋に組み込まないことによって、自然と離れという雰囲気になっていますよね。普通は離れって、母屋の外側にあるものだけれど、ここは家の中に離れが成立していて、日常空間とは違う時間の流れとか用途みたいなものがあります。
場を読み解く
多田さん
離れは、床材に畳がいいのか板がいいのかとか、床の高さもどのくらいにするかとか、実はいろいろ悩みました。
丸山さん
式台は、お義母さんが腰をかけてお漬物の作業をしたり、ベンチみたいに靴の脱ぎ履きに便利なように、高くしました。また離れは床座でのしつらえでしたので、天井高を抑えると落ち着いた空間になります。そこで離れの床も、式台に合わせて上げました。まさか掘る、までは思いつきませんでしたけど(笑)、結果的に床下に空間も残っていましたし、床材もサイザル麻にしていたので、文机のために床を掘込むことは難しくなかったです。
多田さん
私も引越してきた当初は、離れをどういうふうに使えるかなんてわかっていませんでした(笑)。でも、入口の襖を全部引き込めるようにつくっていただいたので、閉じるとまったく別な空間という感じになります。
関
コンパクトな部屋なのに、押入れが1間もあって、窓があるというのもいいですよね。
丸山さん
玄関から収納や押入れなど必要に応じた寸法をとってきたので、離れは京間の3畳くらいの広さしかないです。
関
その部屋の中央に穴ぼこですからね(笑)。多田さんお一人の足が入ればいいのか、それとも家族と入ることも考えた方がよいのか、そもそもこの空間に対してどれくらいの文机がいいのか、とかいろいろあって、穴ぼこの寸法は最後まで決まらず迷いました。しばらくは幅650ミリで考えていたけれど、結局は600ミリに。文机の幅は850ミリです。
丸山さん
現場で部屋のどの位置を掘込むか、という相談をしている時、関さんのこだわりが興味深かったです。ここは襖の線に合わせてとか(笑)。
関
いえいえ、その辺りは丸山さんと似ていると思いますよ。整理整頓というか、線1本、点1つが何か与えるものという感覚には相通じるものがあります(笑)。
多田さん
なかなかお二人の会話は面白かったですね。
関
空間のルールみたいなものが読み込めるというか。だから、丸山さんの建築・インテリアとコラボレーションすることは、すごく面白かったんです。
丸山さん
床を掘込む仕事は大工さんの仕事になるので、繊細なところまでできないこともありますが、できる限り、関さんの感覚と調和させたいと思って、掘込みのディテールの図面を描くたびに、関さんに確認していただき、ご意見をいただきました。
関
やっぱり丸山さんの仕事は、職人さんとの連携が素晴らしい。なかなかできることじゃないです。現場仕事がなるべくシンプルになるようにして、なおかつ丸山さんが現場でちゃんと見てくれるから、細部の納まりが美しいんですよね。
多田さん
本当によく通ってくださいました。
場と物、相互の力の響き合い
関
一つの古い仏壇から、小さな仏壇、文机、収納箱、鏡などが新たに生まれて、離れの空間に散りばめられているわけですが、ここはなんとも不思議な間だなと思います。ゲストルームとして家族連れで泊まるには窮屈なスペースだし、テーブルを置いて人が集まってという広さでもない。なので、いろんな使い方ができるようで、意外と難しい。でも、日常空間とはちょっと違った時間の流れがあって、なおかつこの不思議なコンパクトさによって、ギュッと凝縮したというか。仏壇と文机を置いた時に、それらと空間が心地よくまとまったんですよね。ここが6畳とか8畳とかの広さだったら、この一体感はなかっただろうと思います。
多田さん
冷暖房の効率もいいです(笑)。
関
そういうことも自然な居心地のよさにつながっているんじゃないですか。
多田さん
茶室くらいのサイズ感ですね。
関
実際に、この部屋を使ってみてどうですか。
多田さん
以前は、仕事をダイニングテーブルとか、リビングの座卓とか、いろんなところでしていたんですけれど、いまは離れの文机がいちばん集中できますね。それと、毎朝、仏壇にお線香をあげています。庭の花やいただきものも供えますし、そういうことが、ほんの1分くらいのことですけれど、自然にできるようになっています。
関
日常の流れの中で、そういうことを気が重くならずにできるというのはいいですね。たった1分でも、それができる場があるからですよね。
多田さん
どうしても今日はこれがうまくいってほしいな、ということがある日は、お祈りしたりします。
丸山さん
仏壇を祀った位置もよかったと思います。玄関ホールを行き来する時に、ちらっと見えたりしますから、意識せずとも暮らしに寄り添うのかもしれません。
住環境の中で
関
多田さんの仏壇リメイクは、まだレアなケースかもしれませんが、仏壇のように精神性の伴うものは、今後、多くの人の暮らしにおいて、どう寄り添っていくのかというのは気になるところです。
丸山さん
住宅の設計をする時は、家族のいまの暮らしとその未来に向き合いますが、仏壇は過去まで思いを馳せるものですよね。最近は大きい仏壇はなかなか見かけなくなりましたが、小さい仏壇や、棚の上にコーナーを設けるというケースはあります。これからは、そういうことともっと向き合わないといけないのだろうと思います。
関
仏壇はプライベートな物事なので、案外、建物や部屋ができた後から、皆さん自身で考えることが多いですよね。僕らが深追いしにくいというか。でも、多田さんのケースを振り返ってみて思うのは、建物と部屋と物というものの関係性を考えると、仏壇のようなものも、後からではなく、設計の段階から、リビングやダイニングのことと一緒に考えていくのも大事なのではないかということです。いままで僕たちはそういうことを、間取りを考える時にあまり気にしてこなかったけれど、ご飯を食べることと同じように日常の延長にあるんですよね。自分もいい年になってきて、親も年老いてきて、実際にそういうことが生活の中でリアルになりつつあります。
丸山さん
昔の家にはそういう間があったのに、現代建築になってからいきなり無くなってしまったのかもしれませんね。昔の大工さんは、施主が求めなくても、和室は必要だろうとか、床の間や仏間も必要だろうとか、当たり前のようにつくっていたんでしょうね。
関
日本の家のあり方みたいなものですよね。その当時のままというわけにはいかないけれど、感覚的なものとか、意味合いみたいなものを、いまの暮らしに合うように見つめ直していくことはできるんじゃないかなと思うようになりました。
大切な想いを形に
丸山さん
今回の仏壇リメイクを通して、関さんはどんなことを感じられましたか。
関
仏壇というのは、亡くなられたご両親やご先祖様の家みたいなものですけれど、亡くなられた方に僕は会えないから好みを聞くことはできないんです。すべて多田さんを通して、多田さんの思うご両親の話をうかがうわけです。つまり、僕には見えていなくても、多田さんの暮らしの中ではご両親の様子は見えているんです。そういう入口みたいなものが仏壇だとすると、実際の家の中にもう一つの家をつくるという感覚かなと思います。
丸山さん
なるほど。それは一筋縄ではいきませんね。
関
最近は、仏壇に関わる仕事もいくつか進行していて、正直、なかなか大変です。仏壇というものがどういうものか、構造的なことをはじめいろいろと調べます。デザイナーズ家具調仏壇をつくろうなんて思ってませんから(笑)。形だけでなくて、そこでどういうことが行われるのか、ということも考えます。たとえば、三具足(花入、香炉、燭台)と呼ばれる仏具について、その意味合いなどを調べた上で考案して、「素のもの」という自分たちのブランドの中で提案しています。でも、こちらの一方的な提案ではいけなくて、使う人が自分たちでも調べたり感じたりということが大事になってくるので、そういうことを一緒にやっていくよう心がけています。
多田さん
通常の仏壇とは違って、決まり事がないので逆に大変だったのかもしれません。
関
そうですね。多田さんの仏壇は、ご両親の写真を飾れるように、内部の壁に対で写真入れを取り付けていますけれど、これなんてまさに多田さんオリジナルです。ほかの仏具も、多田さんが大事にされている物、亡くなられた方との思い出の物、好きな作家さんの物などを、仏具に見立てたりして使っています。多田さんにしかわからないような、想いのある物を置いて祀っているんですね。既製の仏具ではありませんし、仏壇のサイズも、本棚の上に置くという前提でコンパクトにしているので、仏壇の内部に仏具をどう置くか、スペースがごちゃごちゃしないよういろいろ考えました。具体的には、基本の三具足の納まりを定めながら、多田さんの思いある物と仏像、ご両親の写真を配置しています。
多田さん
この形に、少しずつ自分たちも馴染んで行くのがいいかなと思っていて。なので、写真入れにはまだ風景写真を入れているんですけれど、そろそろ両親の写真にしようかなと考えているところです。私にとっては、両親や先祖だけでなく、向こうの世界へ行ってしまった人たちと対話する場になっています。
関
今回、つくり手の木工作家さんも、仏壇のリメイクは初めてだったので、最初は躊躇されたんです。仏壇をつくり替えるには、解体しなければなりませんが、やはり特別な物だけに、魂抜きの儀式が必要かとか、どういうふうに扱うべきかなど、わからないことだらけ。作業の際に出て来る端材はどう処理したらいいかとか、現実的なこともいろいろ気になるわけです。そういうことは多田さんも僕もいろいろ調べましたし、僕らは秋山が仏門修業しているので、僧侶の先生にも意見をうかがって、その上で多田さんと一緒に考えながら進めて行きました。
多田さん
自分なりに心を込めて考えて決めていったことですが、それが他の人にとってどうかはわかりませんし、もしかしたら怒られてしまうことかもしれませんけれど。
関
でも、僕たちが仏壇に最初に手をつける前に、多田さんはお祖母様のお墓参りに行って、仏壇の報告をされたと聞いて、とても心に響きました。僕たちも仏壇をつくって終わりなのではなくて、そのものづくりを通じて、ご家族の想いに触れ、奥深い経験もさせていただきました。だから、多田さんのようなケースを知って、何か自分たちなりの方法を見つけられると思える人がいたり、暮らしの中にそういう場や物を持ちたいという人がいてくれたら、それは嬉しいことだなあと思います。
多田さん
そういえば、いつだったか、離れで仕事をしていた時、ふと見上げた仏壇に「奥があるんだ」と思った瞬間があったんです。仏壇の奥が「向こうに通じている」ように見えたというか。それは自分で思おうとして思ったのではなく、ふっとそう見えたんですね。
関
仏壇の扉を開けていると、そこから大切な人とつながっているような気持ちになる時が、きっとあるのでしょうね。扉はつねに開け放して、亡くなってからも家族への思いをつないで暮らしているという方もいらっしゃいますね。
多田さん
早いもので先日、実母の一周忌でした。仏壇をリメイクしようと考えた時には、母のことは想定していなかったのですが、改めて、仏壇ができて、本当によかったと思っています。
関
ご家族の大切なものに関われたことは、とても貴重な有難いことですし、こうして対談、鼎談という形でお話をうかがえて感謝しております。
多田さん、丸山さん、今日はどうもありがとうございました。