東京演劇集団風|レパートリーシアターKAZE

劇団員と共につくる
  • プロジェクト名        東京演劇集団風|レパートリーシアターKAZE ロビー,オフィス改修計画
  • 計画種別     ロビー、オフィス
  • 竣工年      ロビー 2018、オフィス 2019
  • 計画地      東京・東中野
  • 設計       SEKI DESIGN STUDIO
  • 施工       東京演劇集団風 岩井木工舎 横山設備工業
  • 撮影       淺川敏

<今、なぜ演劇なのか、この時代、この社会において演劇の為すべきことは何であるか〉という問いとともに、1987 年、東京演劇集団風を創立。劇団の主な活動として〈レパートリーシステムによる劇場での上演〉〈海外交流〉〈青少年を対象とした全国巡演活動〉を行い、1999 年、東京・東中野に拠点劇場〈レパートリーシアターKAZE〉を建設。同時に群馬県みなかみ町に、専属の俳優・スタッフのワークショップの場、またレパートリー作品のストックヤードも兼ねた月夜野アトリエ演劇工房”― 思考し、実践を重ね、演劇の根幹と向き合う場 — を併設。レパートリーシアターKAZEは、劇団専属劇場の特色を活かし、20世紀を代表する亡命作家ベルト ルト・ブレヒトや現代作家マテイ・ヴィスニユック(ルーマニア出身・パリ在住)の作品などの新作・レパートリー作品を柱に上演活動を展開し、2003 年、《ビエンナーレKAZE 国際演劇祭》を開催。ヨーロッパをはじめとする多国間による演劇人との交流、共同制作は今なお続き現代演劇の可能性を追求し、その協働から生まれた作品は、青少年を対象とした全国巡演活動での鑑賞へとつながっている。(東京演劇集団風HPより抜粋 )

2015年 芸術監督の浅野佳成氏が巡演で広島に訪れた際、立ち寄った家具ショップで僕がデザインした家具を見て、ご自宅に納品したご縁から東京演劇集団風との交流が始まる。

2016年 月夜野アトリエ演劇工房内に「光と影」をテーマに、墨で染め上げたワークデスクをデザインし、2017年 劇団創立30周年記念として、拠点劇場であるレパートリーシアターKAZEの再生プロジェクトに参加。第一期再生計画として、外部の鉄の案内板に黒錆を施して間接照明を設置し、ロゴサインはステンレスの切文字に変え、表札は黒錆鉄板+ステンレスプレート+シルクスクリーンで一新。

2018年 第二期再生計画は、1階のロビーの改修計画に取りかかる。ロビーのデザインコンセプトは、劇団風の今これからの姿勢を表すこと。吹き抜けの高さを強調するためと、ロビーと二階の事務室との視線をコントロールするためにルーバー(縦格子)を設けて、モダンでニュートラルな趣にするために白(無彩色)へ、キッチンとカウンターとテーブルとスツールは、力強く丈夫であるために90角の柱と構造合板で構成して黒(無彩色)とした。高天井のベース照明は、この場に包み込まれる感覚を生むため、連続した直線の光でロの字を描いた。施工は弊社が現場監理を務め、空間に「風らしい気」を宿すために劇団員(俳優) が施工を行なうことを最優先し、手に負えないところを木工職人さんと設備業者さんに補ってもらった。劇団員は塗装工事のほか、木工職人の指導のもと現場での造作工事と家具製作を行い、電気工事は電気技師の免許を持つ劇団員が尽力した。

2020年 第三期再生計画は、二階の企画室を「太陽」をイメージした黄色を用いた明るく開放的な空間に、事務室は「月」をイメージした銀色を用い、集中できる落ち着いた空間に改修した。

Photo:ロビー

Plan

photo : 企画室

photo : 事務所

  • プロジェクト名         東京演劇集団風 月夜野演劇工房|バリアフリートイレ・シャワー・談話室計画
  • 計画種別     バリアフリー施設
  • 竣工年      2023
  • 計画地      群馬県みなかみ町
  • 設計       SEKI DESIGN STUDIO
  • 施工       岩井木工舎 建築桜井
  • 撮影       淺川敏 関洋

hiroshi seki

東京演劇集団風は、バリアフリー演劇を全国の学校や、特別支援学校、盲・聾学校、障害者施設で上演をしています。バリアフリー演劇は、障害の有無にかかわらず、全ての観客が演劇を楽しみ、劇場空間を共有出来る芸術で、劇団風は、この取り組みを続ける過程での、障害者、障害当時者、特別支援学校等の先生方などとの出会いを大切にしています。

今回のプロジェクトは、劇団の総合芸術監督・浅野佳成さんの発案で、劇団の演劇深求の拠点である群馬県みなかみ町にある月夜野演劇工房に、全国で出会った障害者、障害当事者、支援者の方々との交流を深めるための、「招待できるバリアフリートイレ・シャワー・談話室」を作り上げることです。

計画を進めるにあたり、バリアフリー演劇の総合監修で、車椅子ユーザーのDPI日本会議の尾上浩二さんと、自立センター夢宙の平下耕三さんとの意見交換をはじめ、障害者向けの宿泊施設ではリアルな過ごし方を体感させてもらい、衛生器具と備品の選択の注意点と具体的な設計のアドバイスなど、貴重な経験と情報と多大の学びを与えて頂きました。

またTOTOのテクニカルセンターでは、福祉用具プランナーの方々から助言をいたただき、実際車椅子で様々な衛生器具を実体験するなど、障害者の方々の実情を身体感覚で捉えることに努めました。

デザインコンセプトは、バリアフリーを人道主義的に捉えて「差別や区別もなく皆んなで一緒に過ごせる空間」としました。

デザインコンセプトを実現させるために、先ずはダメージを受けていた躯体と下地に補強を施し、壁と天井内に断熱材を充填し、適材適所にサッシを新設して寒冷地に適した構造と熱環境を整えました。

床は、東京(東中野)の劇場建設時に床材として採用した栗材のフローリングの保管材を活用。壁は、近隣の森に身を置いたような温かな自然感を表現するために、杉の縁甲板の溝のある裏面を表面材として扱いました。天井は広がりと清潔感を表現するためにオフホワイトの塗装で仕上げ、照明計画は、空間を温かみのあるで光で包み込むために壁際に間接照明を仕込みました。また2箇所の木製建具(引戸)はアクリル板で光と人影を認識できるデザインで、無垢材のハンドルは障害者(特に車椅子ユーザー)の方々に配慮したオリジナルです。

談話室は、より劇団風らしさ、このプロジェクトならではの価値観を宿す為に、バリアフリー演劇祭を行っている山梨の「社会福祉法人 八ヶ岳名水会」に寄贈して頂いた、障害者の方々が作製した信楽焼タイルと空間との調和を目指して、滋賀の陶芸家の村木奈々子さんの工房で個性豊かな表情や色合いのサイズと厚みの異なる50枚(10種類各5枚)を選び出し、縁甲板の厚み分を掻き込んで嵌め込むことでアートウォールに仕立て、唯一無二の芸術的な空気感で満たしました。

トイレ+洗面脱衣スペースは、車椅子ユーザーの単位空間(静止時)と動作空間と基軸にプランニングし、パブリック用の器具と便器の足元とシャワールームの床材などは、ユニバーサルデザインに精通したTOTOの環境配慮商品で構成しました。

便器は、衛生的で環境に配慮したパブリックコンパクトタイプを採用、便器脇には便器への移乗や座位安定のためL型手摺とはね上げ手摺を設置、便器下の足元は、匂い、汚れの原因である菌を制御し、清潔な空間を実現するハイドロセラフロアを採用しました。

洗面脱衣スペースは、立位と車椅子に配慮した自立歩行者向け洗面台、おむつ交換や衣類の着脱に配慮したグリップ付きの収納式多目的シートと、寒冷地ということを考慮して洗面所暖房機を設置し、壁面には手摺とハンガーを兼ねた無垢材のバーを取り付けて、タオルやシャンプーなどを置く台として、壁面に使用した杉の縁甲板でキャスター付きのワゴンをデザインしました。

シャワールームは、想定する利用者の身体状況と介護レベルに合わせて、弧を描いたシャワーカーテンで使い分けができるプランです。

床は、安全性に優れた浴室専用床タイルのグリップフロアを採用、壁はムラのある表情が個性的なモルタル金ごてトップコート仕上げ、天井には温度変化を無くすためと、湿気対策、乾燥機能に優れた浴室換気暖房乾燥機を設置しました。

建具は、バリアフリーと使いやすさ両立し、ゆったりとした開口で出入りがスムーズで、独自のフレームブレス換気構造、脱衣室側に水の流れを遮る下枠スロープ構造、

カビの発生を抑える室内側ガスケット構造を備えた三協アルミの浴室3枚引戸を採用しました。またシャワーヘッドは、手元で吐水と止水ができる節水クリックシャワーで、シャワーハンガーは人それぞれの利手と健常者を考慮して6箇所設けました。

施工は、東京(東中野)の劇場の改修などの仕事を共にしている旧知の大工仕事もこなす家具職人と、地元の職人さん達とチームを組み、微力ながら自分もフローリング貼りとシャワールームの塗装工事などのお手伝いをさせて頂きました。

東京演劇集団風の「差別や区別もなく皆んなで一緒に過ごせる空間」をコンセプトにした「バリアフリートイレ・シャワー・談話室」が、全国のバリアフリースペースの一例となり、すべての人がお互いの人権と尊厳を大事にして暮らしていける共生社会の構築につながれたら幸いです。

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