東京演劇集団風 月夜野演劇工房|バリアフリートイレ・シャワー・談話室
- プロジェクト名 東京演劇集団風 月夜野演劇工房|バリアフリートイレ・シャワー・談話室計画
- 計画種別 バリアフリー施設
- 竣工年 2023
- 計画地 群馬県みなかみ町
- 設計 SEKI DESIGN STUDIO
- 施工 岩井木工舎 建築桜井
- 撮影 淺川敏 関洋
東京演劇集団風は、バリアフリー演劇を全国の学校や、特別支援学校、盲・聾学校、障害者施設で上演をしています。バリアフリー演劇は、障害の有無にかかわらず、全ての観客が演劇を楽しみ、劇場空間を共有出来る芸術で、劇団風は、この取り組みを続ける過程での、障害者、障害当時者、特別支援学校等の先生方などとの出会いを大切にしています。
今回のプロジェクトは、劇団の総合芸術監督・浅野佳成さんの発案で、劇団の演劇深求の拠点である群馬県みなかみ町にある月夜野演劇工房に、全国で出会った障害者、障害当事者、支援者の方々との交流を深めるための、「招待できるバリアフリートイレ・シャワー・談話室」を作り上げることです。
計画を進めるにあたり、バリアフリー演劇の総合監修で、車椅子ユーザーのDPI日本会議の尾上浩二さんと、自立センター夢宙の平下耕三さんとの意見交換をはじめ、障害者向けの宿泊施設ではリアルな過ごし方を体感させてもらい、衛生器具と備品の選択の注意点と具体的な設計のアドバイスなど、貴重な経験と情報と多大の学びを与えて頂きました。
またTOTOのテクニカルセンターでは、福祉用具プランナーの方々から助言をいたただき、実際車椅子で様々な衛生器具を実体験するなど、障害者の方々の実情を身体感覚で捉えることに努めました。
デザインコンセプトは、バリアフリーを人道主義的に捉えて「差別や区別もなく皆んなで一緒に過ごせる空間」としました。
デザインコンセプトを実現させるために、先ずはダメージを受けていた躯体と下地に補強を施し、壁と天井内に断熱材を充填し、適材適所にサッシを新設して寒冷地に適した構造と熱環境を整えました。
床は、東京(東中野)の劇場建設時に床材として採用した栗材のフローリングの保管材を活用。壁は、近隣の森に身を置いたような温かな自然感を表現するために、杉の縁甲板の溝のある裏面を表面材として扱いました。天井は広がりと清潔感を表現するためにオフホワイトの塗装で仕上げ、照明計画は、空間を温かみのあるで光で包み込むために壁際に間接照明を仕込みました。また2箇所の木製建具(引戸)はアクリル板で光と人影を認識できるデザインで、無垢材のハンドルは障害者(特に車椅子ユーザー)の方々に配慮したオリジナルです。
談話室は、より劇団風らしさ、このプロジェクトならではの価値観を宿す為に、バリアフリー演劇祭を行っている山梨の「社会福祉法人 八ヶ岳名水会」に寄贈して頂いた、障害者の方々が作製した信楽焼タイルと空間との調和を目指して、滋賀の陶芸家の村木奈々子さんの工房で個性豊かな表情や色合いのサイズと厚みの異なる50枚(10種類各5枚)を選び出し、縁甲板の厚み分を掻き込んで嵌め込むことでアートウォールに仕立て、唯一無二の芸術的な空気感で満たしました。
トイレ+洗面脱衣スペースは、車椅子ユーザーの単位空間(静止時)と動作空間と基軸にプランニングし、パブリック用の器具と便器の足元とシャワールームの床材などは、ユニバーサルデザインに精通したTOTOの環境配慮商品で構成しました。
便器は、衛生的で環境に配慮したパブリックコンパクトタイプを採用、便器脇には便器への移乗や座位安定のためL型手摺とはね上げ手摺を設置、便器下の足元は、匂い、汚れの原因である菌を制御し、清潔な空間を実現するハイドロセラフロアを採用しました。
洗面脱衣スペースは、立位と車椅子に配慮した自立歩行者向け洗面台、おむつ交換や衣類の着脱に配慮したグリップ付きの収納式多目的シートと、寒冷地ということを考慮して洗面所暖房機を設置し、壁面には手摺とハンガーを兼ねた無垢材のバーを取り付けて、タオルやシャンプーなどを置く台として、壁面に使用した杉の縁甲板でキャスター付きのワゴンをデザインしました。
シャワールームは、想定する利用者の身体状況と介護レベルに合わせて、弧を描いたシャワーカーテンで使い分けができるプランです。
床は、安全性に優れた浴室専用床タイルのグリップフロアを採用、壁はムラのある表情が個性的なモルタル金ごてトップコート仕上げ、天井には温度変化を無くすためと、湿気対策、乾燥機能に優れた浴室換気暖房乾燥機を設置しました。
建具は、バリアフリーと使いやすさ両立し、ゆったりとした開口で出入りがスムーズで、独自のフレームブレス換気構造、脱衣室側に水の流れを遮る下枠スロープ構造、
カビの発生を抑える室内側ガスケット構造を備えた三協アルミの浴室3枚引戸を採用しました。またシャワーヘッドは、手元で吐水と止水ができる節水クリックシャワーで、シャワーハンガーは人それぞれの利手と健常者を考慮して6箇所設けました。
施工は、東京(東中野)の劇場の改修などの仕事を共にしている旧知の大工仕事もこなす家具職人と、地元の職人さん達とチームを組み、微力ながら自分もフローリング貼りとシャワールームの塗装工事などのお手伝いをさせて頂きました。
東京演劇集団風の「差別や区別もなく皆んなで一緒に過ごせる空間」をコンセプトにした「バリアフリートイレ・シャワー・談話室」が、全国のバリアフリースペースの一例となり、すべての人がお互いの人権と尊厳を大事にして暮らしていける共生社会の構築につながれたら幸いです。