上野毛・S house

天然酵母パンを作り、味わい、楽しむために
toshihide kajihara
  • プロジェクト名 上野毛・S house
  • 建築種別    マンションの改修
  • 用途      住宅
  • 竣工年     2006
  • 計画地     東京・上野毛
  • 構造      RC
  • 計画面積    84.6㎡
  • 設計      SEKI DESIGN STUDIO
  • 施工      英興社
  • 撮影      梶原敏英 関 洋

天然酵母パンをつくるための家づくりをしたいという施主。施主の印象とパン生地の色合いとその触感からインテリアを発想した。その場その場の用途と居心地を考え、床・壁・天井のプロポーションと、素材と家具と光の機能美を調和させた。床は肌触りがソフトで、殺菌効果に優れた生成色の竹の集成材を張り込み、壁と天井は、石灰をベースに骨材を配合した生成色の左官材を塗り込んだ。引戸を多用することで、スムーズな動線と光と風の通り道を確保した。洗面・脱衣・浴室は、防カビタイルと防カビ塗装で仕上げ、多目的シンクは深さのある実験用の流しを採用し、手が汚れても肘で操作ができる医療用レバー水栓を採用した。

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Plan

toshihide kajihara

住まいに夢をのせて

Nov.2012
世田谷区・佐藤さん
Vol.2

 

  • 仕事    マンションリノベーション
  • 家族構成  女性
  • 場所    東京都世田谷区上野毛
  • 取材・文  竹内 典子
  • 写真    梶原 敏英 (無記名分:SEKI DESIGN STUDIO)

 

佐藤さんには「パンが焼けて、サロンのようにも使える空間にしたい」という夢があった。心地よく暮らすことの中に、パンづくりも含まれていて、その夢の姿を思い描きながらの住まいづくりであった。それから6年、久しぶりに訪ねた佐藤邸では、思いがけず、新たな夢が育ちつつあった。

天然酵母のパンをつくるために

佐藤さんは、84㎡の中古マンションを購入されて、僕がリフォームをさせていただきました。あれから6年経ちますが、全然変わらない、すっきりとした暮らしぶりですね。キッチンも使っているきれいさがあって、清潔感が感じられて、佐藤さんらしい気がします。

佐藤さん

私は生活感あっていいと思っていて、その中で気持ちよく暮らしていければと。

以前、佐藤さんが暮らしていたアパートを訪ねた時も、今と同じようなことを感じた覚えがあります。小さい部屋で、趣味のパン作りをされていて、ラックとかにパン作りの道具がたくさん納まっているんだけど、その一つ一つがちゃんと手入れされて、使いやすいよう戻しやすいよう適材適所に工夫して置いてありました。

佐藤さん

小さいアパートでしたからね。家庭用の小型オーブンで焼いていて、でもだんだんと、もっと大型のオーブンで焼いてみたい、自分のパン作りの方法を試してみたいと思うようになって。そのための広いスペースがほしくなったんです。

まだどこに住むか、物件が決まっていない時に、佐藤さんは僕を訪ねて来られた。

佐藤さん

家づくりは初めてのことで不安で。その少し前にマンションの耐震強度偽装事件が発覚して問題になっていた頃で、いくら本を読んでもこれでいいのかとか、一人で決めることが不安だったんです。買ってから、ここにオーブンは置けないってことになっては困るし。家を決める前に、関さんに見てほしかったんです。

たしか大型のオーブンをすでにキープしてあったんですよね。業務用オーブンのメーカー「キュウーハン」さんが、天然酵母パンをつくりたいという人が増えてきて、家庭でも使える小型の業務用オーブンを開発したというもので。大きさも1m角くらいあって、オーブンとその下に生地の発酵器を置くと、佐藤さんの背丈くらいありましたね。

佐藤さん

中古で買ったんですけど、アパートには置く場所がなくて、メーカーさんにこのオーブンでいずれパン作りをやるからと、それまでの間預かってもらっていたんです。

パン屋さんというより、パン教室とかサロンみたいな感じで、この場をイメージされていましたよね。

佐藤さん

そうです。ここでパンは作るんですけど、いかにも作業場というところまでは、しっかり境界線を引けなかったんです。作業場としてがっちり頑丈につくってもらうというよりは、パンを焼くことも含めて自分が暮らして心地よいスペースをつくってもらいたいなと。

本格的にパンを焼けて、サロンにも使えそうなスペース。このLDKはそんなイメージでデザインしたので、普通の家のLDKとはちょっと空間バランスが違うんですよね。キッチンがもともとのダイニングスペース側まで広くあって、普通はダイニングテーブルを置くところにアイランド型のパン捏ね台を置いて、パン作りの場をしっかり確保。ダイニングテーブルはリビング側の真ん中に置いて、ソファは置かずに、窓側にベンチをつくって、そこをちょっとくつろぐリビングのようなスペースにしました。

佐藤さん

一人暮らしなので私にはソファセットは必要ないと思ったんです。ベンチの下は収納も兼ねているので、料理の本や雑誌、ファイルなどをまとめて入れています。

収納の左右の端は扉で開閉する造りで、そこにAV機器とか入るようになっていて、広いベンチの一部をテレビ台に使えますし、それ以外の収納は引出して使えるようにしたんですよね。

佐藤さん

私は細かく仕分けながら整理整頓するのは苦手で、こういうある程度の大きさがある収納に、バンバンしまう方が性格に合っていて、使いやすいんです。

佐藤さんの住まいだから、空間も収納も佐藤さんにとって必要なバランスに整えればいいわけで。すっきりと片付いた感じが、この家らしさにもなっていると思います。

「心地よい居場所」について、笑顔で語っていただきました。
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オリジナルのキッチンは、傷や汚れが目立たないバイブレーション仕上げのステンレスと、床と同じ竹の面材で構成。パン作りと料理のながれに合わせ、調理機器の位置と収納の関係をシンプルにまとめました。
モザイクタイルを背景に、使い慣れたキッチン用品がならぶ。
toshihide kajihara
佐藤さんにとっての心地よい、キッチン、ダイニング、リビングの在り方をデザイン。
既存の出窓に、テレビ台、収納、ベンチソファを一体にした造作家具を絡めることで、窓のある場を活かす。
ソファで寝転んだり、たくさん収納できて便利。
toshihide kajihara

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