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リノベーションというより「カスタマイズ」

Aug.2012
渋谷区・ Fさん
Vol.1

  • 仕事    マンションリノベーション
  • 家族構成  男性
  • 場所    渋谷区南平台
  • 取材・文  竹内 典子
  • 写真    Nacasa & Partners Shigeta Satoshi  (無記名分:SEKI DESIGN STUDIO)

実際に見て・使って・感じて・選ぶ
物に対するこだわり。

Fさんは家具や小物、服など身の回りのものを、一つ一つ丁寧に選んで使っていらっしゃる。若い頃からデザインや素材に興味をお持ちなのですか?

Fさん

今はシンプルなもの、そぎ落としたものに興味のバランスが向いていますが、20代の頃は逆で、華美なもの、派手なものに興味があって、今より執着心も強かったですね。住みたい所といえば歌舞伎町で、服もジャンポール・ゴルチエとか、アヴァンギャルドなファッションが好きでした。

それは意外ですね。

Fさん

実は大学時代、服飾の専門学校にも通っていたんです。

そうだったんですか。動機は?

Fさん

言葉にするとちょっと軽い感じもしますが、最先端のものを知りたい、おしゃれな人間でありたい、というのが目的ですね。将来の職業は別なものに決めていたので。東京で浪人してから地方の大学に入ったんですが、卒業後はまた東京で暮らしたいと思っていましたし。学生でお金もなく、コンビニでアルバイトして貯めたお金で、身分不相応なものをずいぶんと買ったり着たりしました。

興味あることは積極的に実践されるんですね。

Fさん

背伸びしながらたくさんの経験をして吸収したと思います。若いからいろんなアンテナがあって、感受性を培えたし、それがあって物の価値がわかってきた気がします。今は高いからいいとも、安いからダメとも思わない。たとえば、ここにあるB&Bのソファも、IKEAの100円のキャンドルも、僕にとってどちらもいい物です。

建築空間についても、実際に足を運んでいろいろと見られているんですか?

Fさん

見ています。30代前半は、ちょっと無理をして、ホテルではいちばんいい部屋に泊まっていました。国内の都心部、東京や大阪で気になるところはすべて行っています。どういうカーテンか、どんなライティングか、何がどうなっているのか、流行の先端にあるものを見て知っておきたいんです。

本当に好きなんですね。それだけ実物をよく知っているからか、リノベーションにおいてもFさんの要望はわかりやすかったですし、こちらが提案したものについての答えも早くて、いいリズムでやりとりできました。

Fさん

今はあまり迷わなくても物を選べるようになったし、自分の好みを口で言えるようになりましたね。リノベーションで浴室の壁をガラス張りにしたけれど、それも自分で体験していないと想像しにくいことなので、見てきたことが役に立ちました。

satoshi shigeta
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オークの本棚とデスク。建築、インテリア、アートなどの書籍がならぶ。
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大理石ビアンコカララの床と壁と、透明ガラスで構成したバスルーム。 ジャグジーバスに入りながら、本棚を眺めたり、テレビをみたり。。。
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パトリシア・ウルキオラの彫刻的な黒革のソファ。
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ビアンコカララの壁の間接照明。石の粒と光が混じり合い、空間に奥深さを与える。

現実の暮らしが絵になっている
その様子も心地いい。

浴室は、一人暮らしを便利にしてあげたいという意味もあって、もともとの浴室と脱衣室と廊下をつなげて、ドアをなくして、一つのパウダールームにしたんです。さらに、浴室と書斎の間の壁をガラス張りにしたことで、書斎とのつながりもできてよかったと思います。そういえば、ただ体を洗うだけの場ではなくて、「風呂場を使いながら自分の書斎を眺められるなんていうのも気持ちいいよね」という話をしたんですよね。こんなのもFさんらしさというところでのキャッチボールでしたね。

Fさん

それとパウダールームは、収納を入れてもらって、とても使いやすくなりました。脱いだ服を入れるクリーニングボックスや、洗濯後の衣類入れ、入浴後の着替え入れなどを組み込んだり、洗面台にはダストボックスを仕込んだり。すべて動線と絡んでいるので、必要なことを全部ここで済ませられます。朝の準備もパパッとできて、ゆっくり出勤できるようになりました。

Fさんの仕事はかなりお忙しくて、できるだけストレスなく暮らしてほしいと思っていましたから本当によかったです。Fさんがリノベーション後の暮らしについて、洗面台に物が散らばったり、ウォークインクロゼットに服が乱雑になったりしても、そういう現実の暮らしの風景が絵になっていて心地いいと言ってくれました。そのことも嬉しいです。

Fさん

現実の暮らしの中で、家は完成していくと思うんです。自分の好みはもちろんですが、性格も考えないと、現実の暮らしとかけ離れてしまう。僕の一人暮らしの現実は、ウォークインクロゼットは扉を開けっ放し、浴室はシャワー使用がメイン、照明も消し忘れて点けっぱなし。そうなることを想定して、ウォークインクロゼットはオープンスタイルのガラス張りに、浴室はレインシャワーを快適な位置に設置、照明はセンサーで自動点灯になったんですよね。

部屋も広いですからね。玄関を入ると、Fさんの動きにセンサーが反応して自動点灯・消灯するようになっています。

Fさん

自動照明は個人の価値観にもよるでしょうね。電気の無駄と思う方もいるでしょうし、僕みたいに消し忘れるくらいなら自動消灯した方が無駄はないのかもしれない。

寝室は、手元で照明を操作できるようにという要望で、ホテルみたいにベッドサイドテーブルに操作パネルを組み込みました。

Fさん

休日はベッド周りで過ごすことが多いですし、これは便利です。

照明、光の機能美というところでは、その場その場に必要な光量を確保するだけでなく、感じ方にも気を配っています。寝室ではベッドに横になって見上げた時、天井のオークの周りに光が絡むようにしてあります。リビングはカーテンの後ろに間接照明を仕込んだり、オークのトンネルと呼んでいる全面オーク張りの廊下には、あえてトンネル内の照明をなくして、その先で光が光っているという仕掛けに。ウォークインクロゼットはハンガーの上にLEDを仕込んでブティック風になど、Fさんらしいおしゃれさや格好よさというのを、さり気なく意識しています。

Fさん

そこが矛盾しないようになっていますよね。格好いいけど使いにくいとか、使いやすいけど格好悪いとか、そういうことがないので、使っていて無理を感じる部分は全然ありません。

それからすべてを新調するのではなく、以前からFさんがお使いのものを、生かせるところでは残していったのもよかったですね。書斎のコンランの照明もそうですし、照明以外でもウォークインクロゼットのラグや、寝室のヴィコ・マジストレッティのパーソナルチェア。このパーソナルチェアは、Fさんが初任給で購入したという思い出の品ですからね。ちょうど寝室のファブリックとの相性もよくて、いい感じにはまりました。

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トイレから洗面脱衣スペース、右手にバスルームと書斎、左手奥にオープンクローゼットを望む。Fさんにとっての「行為」と「動線」と「感覚」をデザインする。
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大理石ビアンコカララの一枚板の洗面台と、フェイスミラーを天井 から吊るすことで、大らかさとちょっとした遊び心を取り入れた。
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洋服をきれいに丁寧に扱いたいという想いを受け、ブティックをイメ ージした、黒いハンガーバー、ガラスの棚、間接照明などで「見せるクロ ーゼット」を実現した。
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閉塞感を解放するように、寝室とクローゼットと書斎をつなげた。風が ながれ、光が回り込み、視線が通る。
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寝室に思い出のパーソナルチェアを置いて、もうひとつのリビングに。

自分の感性や意識を大事に
暮らしていきたい。

Fさん

ちょっと話は変わりますが、寝室入口のガラスドアに、よくバッグを引っかけているんですけど、この感じ気に入っているんです。

ガラスドアに革のバック、さり気なくていいですね。黒いソファにポンとバッグを置いてあったりするのも、暮らしが絵になっています。それに、そこを感じながらFさんが暮らしているっていうところがいいですね。

Fさん

この暮らしを客観的に楽しんでいる自分もいるんです。現実を生きている自分が大部分ですが、ほんの何割か、客観的な自分もいて。一人暮らしですから狭いワンルームに暮らしてもいいわけですけど、でも、こういう広い空間を自分らしくつくり上げたという達成感がすごくあって、この空間を楽しんでいます。

リノベーション期間は、実質6か月以上かかっています。Fさんは多忙の中、一生懸命に向き合ってくれました。

Fさん

1年以上前から自分でも準備をしていましたから。それだけのエネルギーを使って選び抜けた、という達成感がいまだ強くて、完成したら友人を呼んで見てもらいたいと思っていたんですけど、結局まだ呼んでいないんですよ(笑)。

これからの楽しみですね。

Fさん

そうですね。少し大げさかもしれませんけど、これからも物の価値を見失わないように生きていきたいと思っています。年齢とか、経済状況とか、いろいろと変わってくる部分もあると思うけれど、自分らしい感性や意識をもって物を選んでいきたいですね。そこは大事にしたいです。

今後、家づくりでやってみたいことってありますか?

Fさん

いつになるのかわかりませんが、関さんに次に家をお願いするとしたら、その時は「4畳半の家」をつくっていただきたいです。ベッド一つで、手を伸ばせば何でも届く空間。こことはまったく違う、4畳半の暮らしの世界観というものをつくってみたいです。それは自分にとって終の住み家、究極の家なのかもしれません。

僕が18才まで住んでいた伊豆の実家の部屋は、4畳もないぐらいの広さでなんと7角形! 家具は、大工さんに作ってもらった洋服タンスとベッドと机のみでした。 それでも自分なりに楽しんでいました。今思うと、この限られたスペースの中で、自分好みにこだわってみたり、工夫して楽しめたことが、今の仕事に活きている気がします。広さとかカタチ云々でなく、本当に自分にとって必要なもの、大切なもの、好きなもの、それらに囲まれて住まうことがハッピーなんだなーと思います。また藤井さんにとってのハッピーを、具現化するお手伝いができたらうれしいです。今日は、本当にありがとうございました!

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リビングと寝室のオークの間仕切りは、両部屋のテレビボードを兼ねる。デッキの他、DVDやCDがたっぷりと収納できる。
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開放的な玄関ホールとリビングを、閉鎖的なトンネルでつなげることで 生まれる気持ちの変化。暮らしの中に発見や刺激を仕込む。