リノベーションというより「カスタマイズ」

Aug.2012
渋谷区・ Fさん
Vol.1

  • 仕事    マンションリノベーション
  • 家族構成  男性
  • 場所    渋谷区南平台
  • 取材・文  竹内 典子
  • 写真    Nacasa & Partners Shigeta Satoshi  (無記名分:SEKI DESIGN STUDIO)
「自宅マンションをリノベーションしてほしい」という依頼には、人それぞれの要望がある。Fさんは、マンションという既成空間を、自分好みの空間にしたいと願っていた。40代のFさんの個性を大事に、男性の一人暮らしが住みやすくなるようデザインしていく様子は、リノベーションというよりカスタマイズといった方が近い。Fさんの住まいづくりを、施主とデザイナーで振り返ってみた。

自分らしい空気感をつくる。

いつも思っていることなんですけど、玄関に一歩入った途端、その家の空気に包まれる。そういう家っていいなぁと。F邸の玄関ホールは、まさにFさんらしい空気感になりましたよね。とくに、コート掛けの黒いバーに、黒革のジャケットを掛けて、足元にトランクを置いたところは目を引きますね。黒が効いています。

Fさん

これまでコートなどは玄関に脱ぎ捨てていたので、こんなハンガーに掛けたら便利だし、格好いいし、一石二鳥です。

「玄関はその家の顔」といわれますが、黒を取り入れた大人っぽさ、オークや左官による上質感というのは、「シンプルでナチュラルでラグジュアリー」というF邸のリノベーションテーマにピタリとはまりました。

Fさん

そうですね。自分らしさのある空間になったと感じています。

もともと床が玄関からLDまでずっと黒の大理石という強い存在としてあって、でもリノベーションで黒というのがこんなにうまいバランスではまったのは、Fさんが自分の好みを僕にいろいろと教えてくれたからなんです。浴室のシャワーや水栓金具に、グローエの黒いものはどうかとか、自分からも提案してくれたし、一緒にショールームを回って、いろんな黒の色幅とか質感を共感することもできました。でも、絶対これを使ってという言い方はされないし、だからFさんの好みを考えながらも家全体のバランスを俯瞰して、黒をデザインできたんですね。

Fさん

コンセントプレートやパウダールームのさまざまな金具、それに玄関の靴ベラを下げるフックや、ウォークインクロゼットのガラス板のダボとか、細かいところまで黒を使っていますよね。

デザインの調和という面もありますけど、Fさんのこだわり感を表したかったんです。

Fさん

違和感がなくて、先日までダボが黒だったことに、気付きませんでした。

それはある意味、成功です(笑)
僕はFさんがすでに暮らしていたマンションをリノベーションさせてもらったわけですが、最初からFさんには「自分好みの空間で暮らしたい」という明確な思いがあったように思います。たとえば素材についても、オークの具体的なイメージがありましたね。

Fさん

そうですね。いろいろな素材があるけれど、ここにはオークがしっくりきます。時代の変遷とともに、自分もナチュラル志向になっているのかなというのは感じます。アルフレックスのカタログを見ても、ウォールナットの派手めのものはなくなってきていますね。

そのナチュラル感を表すのに、Fさんにとってはオークであり、ウォールナットの色味とは違うんですよね。もともと書斎の本棚やデスクは、オークでオーダーしたものをFさんは使っていらしたし、静かなオークというか、Fさんのオークに対するイメージはそういうところからも感じました。

Fさん

何年も先のことまではわかりませんが、今は自分の感覚にフィットしています。

satoshi shigeta
掘り上げ天井と、下駄箱に黒い革のベンチを入れ込むことで、ゆとりのある印象に。黒いハンガーバーにお気に入りのジャケットやマフラーなどを掛け、棚付き姿見にはキーなどが置ける。
satoshi shigeta
床は既存の黒い大理石を活かし、壁と天井のプロポーションを整え、石灰に砂を入れたオリジナルの左官と、木目や色調を合わせたオークで構成したインテリア。
水や傷に強い粉体塗装を施した特注のタオルバー。
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